令和5年度 京大ロー入試 商法

 今回は令和5年度京大ロー入試の商法について書きたいと思います。

 

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①解答構成

②反省

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商法61点

 

①解答構成

第1問 60分 3枚半

⑴AのP社に対する会社法上の損害賠償責任について

 

本件Aの行為が会社法356条1項1号及び365条1項に違反しているため、会社法423条1項の責任を問えるか

まずAの行為が会社法356条1項1号及び365条に違反しているといえるか。

《規範》「重要な事実」の意義

《規範》「自己又は第三者のために」の意義

《規範》「株式会社の事業の部類に属する取引」の意義

本件では、バスクチーズケーキは一般人の目線からすれば、洋菓子と同じくデザート類に分類される。また、Q社の事業はキッチンカーを用いたものであるが、京都市内での販売であること、P社の顧客リストをもとにして展開場所を決定していた。これらの事情を考慮すると、Q社のバスクチーズケーキ製造販売事業はP社の洋菓子の製造販売事業と市場において競合しているので、Aが行った助言や原材料の購入取引はP社の「事業に属する取引」といえる。そして、Q社の事業の経済的利益はQ社及びA・Bに帰属するから「自己又は第三者のため」といえる。しかし、AはP社に「重要な事実」を一切報告していない。

よって、Aの行為は会社法356条1項1号及び365条に違反している。

では、会社法423条1項の責任に問えるか。

要件は①任務懈怠②損害③因果関係

本件では、Aは会社法356条1項1号及び365条に違反しているため、会社法355条の法令遵守義務に違反している(要件①充足)。要件②③については、会社法423条2項の適用により損害額が推定される。もっとも、本件ではQ社の損益計算書上の当期純利益は2年連続で0円であるため、損害額も0円であるかのように思える。しかし、AとBは取締役報酬として月100万円を創業当初から受け取っており、その分の利益はあったといえるため、損害額は推定される(要件②③充足)。

以上より、Aは自己に帰責事由がないことを証明しない限り、AはP社に対して会社法423条1項の損害賠償責任を負う。

 

⑵AのQ社に対する会社法上の損害賠償責任について

 

本件Aの行為が会社法356条1項1号に違反しているため、会社法423条1項の責任を問えるか

まずAの行為が会社法356条1項1号に違反しているといえるか。

⑴と同様に考える。Q社は取締役会を設置していないので、Aは株主総会において「重要な事実」を開始しなければならない。

もっとも、Q社はAが全額出資して設立した株式会社なので、AがQ社の一人株主である。この点、競業取引規制の趣旨は事業の機密や顧客情報を用いて取締役が競業事業を行うことにより、会社に損害を発生させることを防止することにある。そうすると、実質的な会社の利益帰属主体たる一人株主が競業取引を行った取締役である場合には、株主総会の承認は不要であると解する。

よって、本件Aの行為は会社法356条1項1号に違反していない。

以上より、Aに他の任務懈怠がない限り、AはQ社に対して会社法423条1項の損害賠償責任を負わない。

 

 

第2問 60分 3枚くらい

XがPに対して本件手形の支払いを求めることができるか。

Aが本件手形を振り出した行為が代理行為として有効であれば、その効果がPにも帰属する。

では、Aが「支配人」として包括的代理権を有していたか。

《規範》「支配人」の意義

AはPから支配人に選任されているが、衣料品以外の品目を新規に扱う場合にはPの了解が必要であるという制限を設けている。したがって、AはPから包括的代理権を与えられているとは言えないので、商法上の「支配人」にはあたらない。

よって、Aの本件手形の振出に係る代理行為は無権代理であり、その効果はPには帰属しない。

もっとも、Aは「表見支配人」にあたるとして、本件手形の振出に係る代理行為の効果はPに帰属しないか。

《規範》「営業所」の実質

《規範》「主任者であることを示す名称」の意義

《規範》「付した」の意義

本件では、要件を満たすため商法24条が適用されるかのように思われる。

しかし、商法24条但書は適用されないか。

《規範》「悪意」の意義

本件では、Xは納入した中古ソフトが甲使店の店頭で販売されていないことには気づいていたにもかかわらず、中古ソフトの行方をAに問い合わせることもなく、約1年も経過している。これらの事情を考慮すると、Xには重過失がある。

よって商法24条は適用されない。

もっとも、本件ではAが商法上の「支配人」である旨の不実の登記がある。そこで、商法9条2項が適用されないか。

《規範》「善意」の意義

本件では、PはAが商法上の「支配人」でないにもかかわらず、故意にAが「支配人」である旨の登記をしている。また、XはAが「支配人」でないことについて善意であるといえる。

以上より、商法9条2項により、本件手形の振出に係る代理行為の効果はPにも帰属する。したがって、XはPに対して本件手形の支払いを求めることができる。

 

 

②反省

 第1問については、最初に問題を見た時に⑴と⑵でどのように解答に差をつければよいのか分からず、ほぼ同様の議論を繰り返していいのか?と迷いました。そこで、問題文を注意深く読み直したところ、Q社に取締役会が設置されてないことやAの全額出資であることが目につき、解答の道筋が立ちました。⑴の役員報酬と損害額の推定の関係については同じような事例がロープラに載っていたので、それを思い出して参考にしました。⑵の一人株主と競業取引についての規範は、一人会社と利益相反行為についての規範を応用して現場思考で書きました。

 第2問。まっっっっっっっっじで焦りました。手形が出てきているのに、手形法の適用の必要性と論点が全く思い浮かばない、かつ、商法の論点についてもすっきり当てはまるものが思い浮かびませんでした。どうしようって思いながら、15分くらい思考錯誤しました。その中で商法総則の基本書のコラムを思い出し、Aは「支配人」なのか?という疑問を持つことができたので何とかなりました。道筋が立ってから残り40分くらいしかなく、時間が足りなかったので、論証やあてはめは本当にぐちゃぐちゃでした。