令和5年度 京大ロー入試 刑法

 今回は令和5年度京大ロー入試の刑法について書きたいと思います。

 

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①解答構成

②反省

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刑法 67点

 

①解答構成

 

第1問 75分 4枚びっしり

 

甲の罪責

⑴Xに「顧客から預かった大金を紛失して大変なことになっている」と嘘をついて、500万円を用意させた行為について

詐欺未遂罪(刑法246条1項・250条)は成立するか

詐欺罪の成立要件

①欺罔行為②欺罔による相手方の錯誤③錯誤による交付行為④財産的損害

《規範》欺罔行為の意義

本件では、甲のXに対する欺罔行為は認定できるため、実行の着手は認められる。もっとも、財産の移転は発生していないので既遂には至っていない。

故意と不法領得の意思は認められる

よって、詐欺未遂罪が成立する。

もっとも甲とXには親族関係があるため、刑法251条・244条1項が適用され、甲の詐欺未遂罪は免除される。

共犯関係については後に述べる。

 

乙の罪責

⑴甲と電話し、X宅に現金を取りに行くように計画した行為

 

詐欺未遂罪(刑法246条1項・250条)の共同正犯(刑法60条)は成立するか

共謀共同正犯の成立要件

①共謀②共謀に基づく実行行為③重大な寄与

本件では、甲と乙の共謀は認定できる。また、乙はX宅に現金を受け取りに行くという重要や役割を担い、報酬として100万円を受け取ることを甲と約束しているため、重大な寄与をしているといえる。

もっとも、本件では乙が甲と共謀した時点で既に甲には詐欺罪の実行の着手が認められる。このような場合にも、要件②について共犯の因果性はあるといえるか

《規範》承継的共犯

本件では、甲の先行行為が乙の関与後も効果を持ち続けており、乙が甲と違法な結果を実現しようとしているため、因果性が認められる。

よって、乙に詐欺未遂罪の共同正犯が成立する。

 

⑵裕福そうなXを脅して、何百万円か上乗せして巻き上げようとした行為

強盗予備罪(刑法237条)の共同正犯(刑法60条)は成立するか

《規範》「暴行又は脅迫」(刑法236条1項)の意義

《規範》「強取」(同条)の意義

本件では、乙は脅迫のために匕首を用意しており、匕首でXを脅す行為は「暴行又は脅迫」にあたる。また、Xを匕首で脅して現金を巻き上げる行為は「強取」にあたる。よって、乙には「強盗の罪を犯す目的」で匕首を用意している。もっとも、乙はXに「暴行又は脅迫」を加えていないので、実行の着手は認められない。

故意と不法領得の意思も認められる。

よって、Xには強盗予備罪が成立する

甲との関係で共同正犯は成立するか

《規範》共謀後の関与者による予定の変更(抽象的事実の錯誤の類型)

本件についてみると、詐欺罪と強盗罪では相手方の生命身体に危険を加える点で、行為様態が大きく異なり、また乙の動機も甲との共謀時とは異なっている。よって、甲乙間の共謀と乙の強盗予備行為に因果性はない。

よって、甲との共同正犯は成立しない。

丙との共犯関係についてはのちに述べる。

 

⑶玄関ドアをこじ開けた行為

器物損壊罪(刑法261条)が成立するか

《規範》「損壊」の意義

本件では、乙は玄関ドアをこじ開ける際に、何らかの施錠器具を「損壊」したといえる。

また、故意が認められる。

よって、器物損壊罪が成立する。

 

⑷Xの留守中に勝手に入って現金を持ち去ろうとした行為

窃盗未遂罪(刑法235条・243条)が成立するか

《規範》「財物」の意義

《規範》「窃取」の意義

《規範》「実行の着手」(刑法43条)の意義

本件では、X宅内にある現金500万円は「Xの占有するXの財物」である。そして、X宅は留守宅であることを考えると、少なくとも乙がX宅内に侵入し現金500万円を探すために玄関ドアをこじ開けた時点で「実行行為に密着する行為」がなされ、「結果発生の現実的危険性」があると言えるので、実行の着手が認められる。しかし、財物の移転はないので既遂には至っていない。

故意と不法領得の意思はある

よって、窃盗未遂罪が成立する。

 

丙の罪責

⑴乙と共謀してXを脅し、現金を巻き上げようとした行為

強盗予備罪(刑法237条)の共同正犯(刑法60条)は成立するか

共同正犯の成立要件(同上)

乙丙間にはXに対する強盗についての共謀があり、その共謀に基づいて乙が匕首を用意している。また、丙は謝礼をもらう約束をしており、暴力団員で体格がよく強面であることを利用してXを脅迫するために重大な寄与があるといえる。

よって強盗予備罪の共同正犯が成立する

 

⑵乙が玄関ドアをこじ開け、X宅に侵入した行為について

器物損壊罪(刑法261条)及び窃盗未遂罪(刑法235条・243条)の共同正犯が成立するか

共同正犯の成立要件(同上)

本件では、強盗と窃盗の行為様態が大きく異なることを考慮すると、甲乙間ではXを脅迫して強盗をすることについての共謀はあるものの、留守のX宅に侵入して窃盗をすることについての共謀はないといえる。

よって器物損壊罪及び窃盗未遂罪の共同正犯は成立しない。

 

以上より、甲には刑法上何ら罪が成立せず、乙には詐欺未遂罪の共同正犯、強盗予備罪の共同正犯、器物損壊罪、窃盗未遂罪が成立してそれぞれの関係は併合罪(刑法54条)、丙には強盗予備罪の共同正犯が成立する。

 

 

第2問 45分 3枚ちょっと

 

甲の罪責

⑴乙の財布から運転免許証を抜き取った行為

窃盗罪(刑法235条)が成立するか

《規範》「他人の財物」の意義

《規範》「窃取」の意義

免許証は「乙の占有する乙の財物」といえる。また、甲は乙の免許証を乙の意に反して自己の占有に移しているといえるため、「窃取」したといえる。

故意はあり

《規範》不法領得の意思

甲は乙の免許証を一時的に使用するために窃取したのであり、実際に後に乙に返却しているため、権利者である乙を排除する意思はなかったといえる。

よって不法領得の意思が認められないので、窃盗罪は成立しない。

 

⑵Xに対して乙の運転免許証を呈示し、酒を購入した行為

詐欺罪(刑法246条1項)が成立するか

詐欺罪の成立要件

①欺罔行為②欺罔による相手方の錯誤③錯誤による交付行為④財産的損害

《規範》「欺罔行為」の意義

では、本件で甲は乙の免許証をXに呈示した行為は「欺罔行為」にあたるか

Xが甲を乙だと誤信して酒を販売しているが、甲はXに代金を支払っているため、Xの損害は「未成年に酒を販売しない」という社会的利益に過ぎない。とすると、詐欺罪は財産犯であるため、「欺罔行為」も何らかの財産の交付に向けられている必要があるところ、甲の本件免許証呈示行為はそのような財産に向けられたものではないといえる

よって、甲の本件免許証呈示行為は「欺罔行為」にあたらないため、実行の着手は認められない。

よって、詐欺罪及び詐欺未遂罪(刑法246条1項・250条)は成立しない。

 

乙の罪責

⑴甲をベランダに放り出して、風邪をひかせた行為

傷害罪(刑法204条)は成立するか

《規範》「傷害」の意義

本件では、乙が甲をベランダに放り出すという不法な有形力の行使である「暴行」を加え、その結果甲が風邪をひいているため「健康状態を不良に変更させた」といえる。

《規範》傷害罪の故意

本件では、少なくとも乙は甲に対してベランダに放り出すという「暴行」の故意は認められる。

よって、傷害罪が成立する。

 

⑵焚火をしようとライターに火をつけた行為

建造物等以外放火罪(刑法110条1項)が成立するか

《規範》「焼損」の意義

《規範》「公共の危険」の意義

本件では、乙が点火した媒介物の段ボールを離れ、木材に燃え移って「火が独立に燃焼している」の木材を「焼損」させたといえる。また、火災となって近隣の住民が避難するに至ったことから「公共の危険」が発生しているといえる。

《規範》「公共の危険」(刑法110条1項)に対する故意の要否

本件では、乙は「公共の危険」を発生させるという認識・認容はなかったといえるため、故意が否定される。

では失火罪(刑法116条2項)は成立するか

《規範》「失火」の意義

《規範》「過失」の意義

本件についてみると、乙は近くに木材があることを知りながら段ボールに点火していることから、火が木材に燃え移ることについて「予見可能性」があり、木材に燃え移らないように距離をとる等の「結果回避可能性」もあったにもかかわらず、結果回避行為をせずに出火させ、「公共の危険」を発生させている。

よって、失火罪が成立する。

 

以上より、甲には刑法上何ら罪が成立せず、乙には傷害罪と失火罪が成立し、両者は併合罪(刑法54条)である。

 

 

②反省

 (※本番の解答構成はぐちゃぐちゃすぎて何をどの順番で書いたか覚えておないので、上記解答構成の再現度は70%ほどです。)

 

 第一問はえぐかったです。3人の共犯関係が複雑すぎて、よくわからなかったです。満足のいく解答をするのは無理だと思ったので、自分の思考の過程をそのまま解答にしました。採点者の読解力を信じ、下書きはほぼせず、あれこれ考えながら解答を書いたので、目も当てられないほどぐっっっっっちゃぐちゃでした。構成も論証も事実のあてはめも、何一つうまくできたと思えるものがありませんでした。甲乙間の強盗予備罪の共同正犯については、共犯の因果性を認めると錯誤論に行かなければならず、そんな時間も余裕もないと思い、やや無理矢理に因果性を否定しました。乙の窃盗未遂罪についても、実行の着手を早い段階で認めないとスムーズに罪を成立させられなかったので、その論証は強引だったと思います。

 第二問は時間との勝負でした。第一問で大幅に時間を使っていたので、結構急ぐ必要があり、こちらも考えながら答案を書きました。第一問ほどではないと思いますが、解答は結構ぐちゃぐちゃでした。一応思いつくことは全部書いたのですが、学説の対立などに言及している余裕はなかったので、自説をごり押した感じがします。最後の失火罪については、時間がなかったので適当オブ適当で書きました。

 刑法はもともと得意ではあったのですが、本番での手ごたえはあまりよくなかったですし、実際に解答はぐちゃぐちゃを極めていました。なので67点という点数に何が影響したのかよくわかりませんが、少なくとも京大ロー入試においては解答構成や論証の正確性よりも、できるだけ多くの論点に触れることと理論的な思考の展開が重視されているのではないでしょうか。